吹奏楽作品の中にはコントラバスが編成に入っていない楽曲というものがあり、そういった場合はコントラバスでチューバの楽譜を演奏します。
コントラバスは低音パートとしてチューバ・バリトンサックス・バスクラリネット・ファゴットなどと一緒のグループにいることも多く、合奏における役割も低音域を担当しているということだけを考えれば同じになり、その中でも一番近い楽器がチューバになるのでコントラバスの楽譜が無い場合はチューバの楽譜を一緒に演奏するという図式が出来上がるのでしょうか。
コントラバスがチューバの楽譜を演奏する時に「弦バスのパートないからチューバと一緒に弾いて」と楽譜を渡される。
吹奏楽部でよくある流れですが、コントラバスがチューバの楽譜を演奏するメリットとデメリットまでは、あまり知られていないような気がします。
何が違う?コントラバスとチューバの楽譜
チューバの楽譜とコントラバスの楽譜はいったい何が違うのでしょうか。
役割が同じだから一緒じゃないの?いいえ、違うんです。
実は書かれている音域が違う
コントラバスは、実際に鳴る音よりも楽譜には1オクターブ高く書かれているので、記譜された音と鳴る音が一致する実音表記のチューバ譜を渡されたときに高確率で感じるのが
低すぎて読めない( ̄O ̄;)
慣れたり、音名を書けば大丈夫ですが案外知られていないことなので、知っていただけると嬉しいお話。
まとめ
- チューバは記譜された音と実際の音が一致する実音表記
- コントラバスは実際に鳴る音よりも楽譜には1オクターブ高く書かれている
※ハイドンやモーツァルトをはじめとした古典派の時代、コントラバスはチェロと同様の楽譜を演奏しオクターブでバスラインを形成していました。実際に鳴る音よりも楽譜には1オクターブ高く書かれているのは、その名残であるとも言われています。
チューバ譜には「arco」と「pizz」の指定がない
弦楽器は大きく分けて2つの奏法があります。
- arco(アルコ)弦を弓で擦り音を出す。
- pizzicato(ピッツィカート/略 pizz.)弦を指ではじいて音を出す。
吹奏楽でもコントラバスの楽譜にはこの2つの奏法が作曲家から必ず指定されており、その指定通りに演奏します。仮にその指示を無視して演奏すると、場面によっては良いアンサンブルはできなくなってしまいます。
例 ヤン・ヴァン・デル・ロースト/交響詩「スパルタクス」
中間部にコントラバスのpizz.がバンド全体を包み込むようなことろがあります。ここを弓で、しかも書かれている音を開放弦で弾いてしまうとどうでしょう。興味のある方は聴いてみてください。
ここまでの話をまとめると
- チューバ譜とコントラバス譜は書かれている音域が違う
- 管楽器の楽譜のため「arco」と「pizz」の指定がない
となります。
以上の2つがチューバとコントラバスの楽譜で大きな違いです。
なので、コントラバス奏者がチューバ譜を手にしただけだとどう演奏して良いかわからないまま本番を迎えてしまうといった事態が発生してしまいます。
そうなると、弾き手にとってはかなり辛い状況になってしまいますよね。
なので、吹奏楽部でコントラバス奏者にチューバ譜を演奏してもらいときは、これから書いていくことを知っておくと良いと思います。
チューバの楽譜を手にした時に知っておきたい2つのこと
コントラバスでチューバ譜を演奏する時には大きく分けて2つの考え方があります。
- 全てオクターブを上げて演奏する
- 音域が低くて演奏できないところだけオクターブを上げて演奏する
音楽大学の吹奏楽の授業でも、一緒に演奏していた先輩や仲間によって考え方が様々で全部音を上げたり、必要なところだけ音を上げ下げしたりして演奏しました。楽譜を手にしたら、一通り目を通して音の高さをどうするかを考えてみるとよいでしょう。
例 ロバート・ジェイガー/シンフォニア・ノビリッシマ
全ての音を上げても演奏できますが、はじめは少し音が高くなります。途中に出てくる低音のテーマも表記のまま演奏するか、ここもオクターブを上げるか人によって違いがあります。
弓が足りなくなった時は、どんどん返して良い
楽譜に書かれているアーティキュレーション通り演奏すると、弓が足りなくなることがよくあります。
スラーがかかっていても、なるべと音が繋がるように意識しながら演奏すれば弓を返して大丈夫です。特にボウイングをつける知識がまだない初心者の子が悩むポイントで、ここをクリアするとかなり演奏しやすくなります。
例 ロバート・W・スミス/船乗りと海の歌(海の男達の歌)
低音パートがカッコよく3連符を演奏するところがあります。
ここは楽譜通り演奏すると弓が足りなくなってしまいます。
こういう場合は3連符1つをひと弓で弾いてみたり、演奏しやすいように工夫すると良いでしょう。
コントラバスがチューバの楽譜を演奏する「メリット」
僕が吹奏楽部を指導して感じるメリットは、下記の3つ。
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ポップスを演奏する時に、役に立つチューバ譜
複数コントラバスがいる学校は誰か一人がエレキベースを担当し、他のメンバーは同じエレキベースの楽譜をコントラバスで演奏するということがありますが、アップテンポの曲でオクターブの跳躍が続く場合などコントラバスでは泣きたくなるレベルで難しいところがよくあります。
そういった場合には顧問の先生に相談してチューバ譜を演奏すると良いでしょう。
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pizz.を効果的に使って低音パートをサポートする
チューバの楽譜を弾いていると「ここはpizz.の方が良いかな?」という時があります。そう感じたら、指揮をする先生に相談をして試しに指で弾いて(はじいて)みましょう。
場面によってはコントラバスのpizz.が周りを包み込む効果があります。
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長い音価の音こそ良い音程で周りの仲間を支える
例えばコラールの場面、長い音価の音が続いていると管楽器はどこかでブレスを取る必要が出てきます。そこでチューバと同じ楽譜を弾いているコントラバスが良い音程・音色で音を持続していると低音セクションの仲間からはとても吹きやすいと言ってくれます。
こういった場面こそ、コントラバスの魅力がキラリと光ります。
コントラバスがチューバの楽譜を演奏する「デメリット」
チューバの楽譜を弾くことのデメリットも知っておきたいところです。
特に指導者の方、必見!
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書かれている音域が違う、出ない音域をどうすれば良いかわからない、奏法の指定がない
書かれている音域の違い、奏法の指定がなくどう弾いて良いかわからないといった悩みはパートに1人しかいない学校でよく聞く悩みです。
また、こうした状態は初心者の子にとって一番過酷です。
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自分の音が聞こえないことに対しての不安
管楽器と弦楽器では音量の差があるため全員でf(フォルテ)を吹いている場面なのでは音が聞こえなくなってしまいます。これはしかたのないことかもしれませんが吹奏楽部でよく耳にする
弦バスはチューバにかき消されて聞こえない。弦バスはチューバの補佐役。
といった言葉に繋がるのかと思っています。
コントラバスとチューバは良い関係を築けたら最強
今回は、多くの吹奏楽部のレッスンで相談を受けることもあるコントラバスがチューバの楽譜を弾くことに対するメリットとデメリットをまとめました。
先ほど、ネガティブワードとして弦バスはチューバの補佐役という言葉をあげましたが、これはポジティブに捉えられることもできます。
例えば、曲の強奏部分はチューバのパワフルな音に任せます。
もちろん、低音楽器の聴かせどころなのでコントラバスも頑張ります。
そして、弱奏部分の美しいコラールでメロディを支える長い音。
ここでコントラバスが少し大きめの音量で、一緒にメロディを支えている楽器の音色をイメージしながら演奏してみてはどうでしょう。
良い音程、良い音色で弾けると弦楽器の暖かい響きが低音セクションを包み込んでくれることでしょう。
ときにチューバに頼り、弦の響きを生かす時にしっかりと生かす。
こうして、チューバ×コントラバスの低音チームで持ちつ持たれつの良き関係を築き上げてみてください。
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