今年に入ってアマチュアオーケストラや弦楽合奏団、弦楽アンサンブル部と弦楽器の指導に関わることが多くなり、そこでは「この曲のリズムが難しい」や「音程が取れない」という声を多く聞いてきました。
こうした疑問を合奏指導の中で解決していく際、吹奏楽指導の現場で使う「縦の線を合わせる練習」や「音程を作る練習」また、合奏の中でメトロノームを使った練習方法が大きな効果を上げることがありました。
こうしたことから、アマチュアオーケストラや弦楽器セクションの分奏における「基礎合奏」の必要性、また吹奏楽指導の現場でのアイディアをアマチュアオーケストラのレッスンで活かせるのではないかということを考えていました。
「基礎合奏」って何?
「基礎合奏」とは何かということを簡単に解説すると、バンド全体の基礎力を向上のためる練習で、全体で音を伸ばすロングトーンに始まり、音階練習、リズム練習、ハーモニートレーニングといった音楽を作るための基礎的な部分を学びます。
3Dバンドブック、JBCバンドスタディ、スーパーサウンドトレーニング、トレジャリ・オブ・スケールなど、合奏の基礎を作る教則本が多く売られ、指導者が内容を理解して効率的な練習を行えば、奏者の音程感や和声感、調性感を養うことができるのが基礎合奏の魅力です。
吹奏楽の世界、中でも中高吹奏楽部では多くの学校が、合奏練習の前に基礎合奏を取り入れ練習しています。
実験思考「室内オーケストラ×基礎合奏」
都内で活動する室内オーケストラから「アンサンブルを作る上で必要となる基礎的な部分を見て欲しい」というリクエストを受けレッスンへ。
お話を聞く中で「音程を合わせること」について学びたいという声があったので、吹奏楽指導の現場で行われている細かいチューニングと基礎合奏を提案してレッスンへ行ってきました。
今回お世話になったのは、今年からトレーナーとしてお付き合いをさせていただいている『armonioso CONCERTO』のみなさん。
楽団の歴史を紐解いてみると、小さな吹奏楽団としてはじまり、数年前に弦楽器を仲間に迎え入れ今は小編成オーケストラとして活動している楽団です。
「基礎練習と音作り」アマチュアオーケストラで基礎合奏をやってみた
今回は3時間という枠の中でのレッスンだったので「基礎練習と音作り」というテーマを掲げ、3つのコマに分けて進めていきました。
- チューニングとスケールを使った音作り
- ディスカッションタイム
- まとめの合奏指導
ディスカッションタイムは、団員一人一人とお話をしながら悩みを解決していこうと思いつき、テーマを決めて音を出しながら意見交換や実験をしていく時間を試みました。
細かいチューニングをしてみる
まずは、いつも通りのチューニングから。
チューニングを終えたあと、もう一度「A(ラ)」の音を出してもらいよく聴いてみると、少しうねりを感じます。
ここから少し細く見ていくことにして、まずは全員がチューナーを取り出し針の真ん中を狙って音を出していきます。
針の真ん中に音の高さが揃うとうねりが消えましたが、まだ違和感が残ります。
まずは、この違和感が何なのかを紐解いていくことにしました。
コンサートミストレス(以下、コンミス)の先生も参加してくださったので、一緒に考えていきながら違和感を取り除いていきます。
思いつくことを色々と試した中で、解決に導いてくれたのは以下の3つ
- 音色
- 音量
- 音のスピード
でした。
まず、大きな音で吹かずにmp〜mfの音量で音を出す。
そして、音色は自分の思う良い音で。
また、真ん中を刺す針が音を出している中で大きく揺れる場合、何が原因なのかを一人一人が考え調整していきます。
弦楽器であれば、弓の圧力、弾く位置が変わっていないかなど細かい部分を見ていき、コンミスがずっと「A(ラ)」を弾いてくれていたので、一人ずつこの音に歩み寄ることをポイントとして、音を出すときは弓の動きをキャッチして玉入れのように音を入れていく練習をしました。
これで、うなりが消えました。
ここでチューナーの役目はおしまい。
次は、これまでの感覚を大切にしながらコンミスの音を耳で音を聴き、いつも通り合わせていきます。
これで、良い音が整いました。
スケールを使った音作り
元々、吹奏楽団だったということもあり「弦楽器との合わせ方」についての質問がありました。
こうしたときに、オーケストラ用の基礎合奏教本があれば良いのですが、すぐに手に入る教則本がないので、無ければ自分で作ってしまえば良し。
吹奏楽部のコントラバスのレッスンで爆発的な効果を発揮したスケールアンサンブルを楽譜をホワイトボードへ書き、レクチャーしながらスケールを使ったハーモニー練習をやってみました。
また、弦楽器のクロイツェルやセヴィシックの教則本からヒントを得てボウイングを記入したリズムバリエーションを練習します。
見にくいですが変ロ長調(B-dur)のスケールに音を一つ足して最高音をC(ド)にして3つのグループに分けて演奏します。
- Aグループはそのまま演奏
- BグループはAグループがD(レ)に来たときにスタート
- CグループはAグループがF(ファ)に来たときにスタート
これでスケールを弾く中で三声の和音ができます。
あとは、はじめに学んだ音程の作り方を意識して音を重ねていきます。
チューナーの使い方
ここで一つ面白いことが起きました。
スケールで音を重ねていくときに目安としてチューナーを置いたところ、音程は良くなったけどただ音を重ねているだけのスケールが生まれました。
次はチューナーを外して前の人の音に歩み寄ること、そしてスケールを一つのフレーズとして捉えて演奏してみると、さっきよりも音程が良くなりまた音楽的なスケールが聴こえてきます。
こうなると、最初のリクエストであった「音程を合わせること」に関しては、音程を合わせることを意識するよりも、基準となる音に歩み寄ることや、スケールを一つのフレーズとして捉え音楽的な方向性を揃えていくことで結果的に良い音程が生まれてくるという形になりました。
弦楽器との合わせ方
「弦楽器との合わせ方」に関しては、ホワイトボードに書いた様々なリズムバリエーションにボウイングを記入し、実際にコンミスに音を出してもらい、ボウイングのよって変わってくる音のニュアンスを聞き比べ、一緒にそのリズムで同じスケールを使ったハーモニー練習をしていきます。
いろいろな考え方がありますが、今回は「弓の使い=息の使い」としてコンミスの弓の使い方を視覚的にキャッチして音作りをしていく練習。
ここで、僕が秋から吹奏楽部のレッスンで使用するために作った楽譜を公開するので、ぜひお役立てください。
今回はこの楽譜を元にレクチャーしました。
もちろんダウンロードもOK!
自由に使ってTwitterで感想つぶやいてください。
パートで楽しむ基礎練習「スケール×アンサンブル」ディスカッションタイム「どうやって合わせてる?」
休憩のあとは楽器を置いてディスカッションタイム。
今回のテーマは「どうやって合わせてる?」
- 自分が遅れて足を引っ張ってしまっている
- 休符の数え方や感じ方
- 速い動きの練習方法
- メロディーを聴いているけど合っていない気がする
- 急いでしまうリズム、取りにくいリズムの練習方法
- 指揮をどう見て演奏するか
「こうした場合、どうしてますか?」と団員さんから上がった悩みを、メンバー同士で意見交換したり、コンミスの先生はオーケストラや室内楽での演奏経験、僕は指揮者を置かないサロンオーケストラや吹奏楽での演奏経験を元にお話をしていきました。
実際に上がったアイディアをその場で実験したり、合奏指導の中にこうした時間を取りれるのも面白いなと思いました。
まとめの合奏!
時間が経つのは早いもので、ディスカッションタイムが盛り上がり最後はリクエストのあった曲を一曲取り上げておしましい。
ディスカッションタイムで上がったアイディアもいくつか実践で使うところがあり、フレーズの中にある休符をどう感じるか、誰が音楽を運ぶのかといったところを中心に練習をしました。
3時間という枠の中で、ちょっと変わった合奏指導を提案させていただきましたが、何か役に立つことがあれば嬉しいです。
おわりに
アマチュアオーケストラにおける「基礎合奏」の必要性。
これについては、絶対的な必要性は感じないけど、音楽的な練習を進めていく中で「音程・音形・音色」など基礎的な部分がもっと良くなれば、さらに良い演奏につながると感じた場合に、大きな必要性を感じました。
まだまだ勉強中の身ではありますが、だからこそいろいろなことを実験し、トライ&エラーを繰り返し、より良い合奏指導ができるように頑張っていきたいです。
都内で活動する室内オーケストラの基礎レッスン!音程を良くしたいとのリクエストをいただいていたので「音程を合わせる」という言葉を使わずにスケールを使った基礎合奏。ディスカッションの時間を作ってテーマ決めてみんなで意見交換、合奏指導とあっという間の3時間。ありがとうございました! pic.twitter.com/SOd3Mt4bfe
— 井口 信之輔 / コントラバス (@igu_shin) September 22, 2019
今回登場した『armonioso CONCERTO』は、E,サティのピアノ作品など興味深い曲を多く取り上げている小編成オーケストラ。
団員も募集中です!
『armonioso CONCERTO』の皆さん、ありがとうございました!