コントラバス奏者、指導者、指揮者の井口信之輔です。
多くの吹奏楽部に顔を出し、合奏指導やコントラバスのレッスンをする夏のコンクールシーズン。
今年は部活動指導員として学校に勤務する形でも吹奏楽指導に関わり、例年とは違った夏を過ごしています。
今年はこの時期の活動をブログに書いていこうと思っており、今回は部活動指導員として平日2時間程度の活動の中で合奏にどんな工夫を取り入れているかを書いてみます。
部活動ガイドラインが作られ、平日は楽器の準備片付け含め2時間程度しか活動できなくなった。
当時、そんな記事を見たときは2時間で何ができる?と思ってしまったこともありましたが、実際に部活動指導員として現場に足を踏み入れ、工夫を重ねて練習をしている生徒たちの姿を見ると2時間もあればいろんなことができると感じることがたくさんありました。
事前に合奏をする部分を決めておく
まずはこれですね。
今日の合奏でやる部分を決めておくだけで効率的な合奏ができます。
例えば三部形式(三つの場面に分かれている曲)であれば今日は最初の場面、翌日から2日間は個人練習の日にして次は中間の部分といった感じ。
合奏をする部分を生徒たちに伝えておく
これもすぐにできる方法ですね。
前日のミーティング、または当日に今日合奏する部分を伝える。
このときは曲の最後をやるとか真ん中をやるだけでなく、リハーサルマークで伝えること。
リハーサルマークってなに?
リハーサルマークは楽譜に書かれているアルフベットや数字のことです。
今日は「H」からとか「J」からとリハーサルマークでを伝えることで、個人練習の時間の効率化にも繋がります。
欠席者を把握しておき重点的に見るパートを決めておく
今日の欠席者を把握しパートが揃っているセクションで重点的に見ていきたい楽器を決めておくこと。
実際に音を出してみると思い通りに行かないことの方が多いですが、ある程度今日はこのパートや低音セクションをしっかり見ていきたいと事前に決めておくことで合奏の時間も効率的に使うことができます。
と、ここまでは明日からすぐにできることで僕は他に以下のようなことをやっています。
個人練習を見回る
合奏の前に個人練習の時間を設けている学校であれば、パートごとに教室が振り分けられていることがあるので、スコア・ペン・付箋を持って各教室を見回ります。
廊下を歩いていると音が聴こえてくるので、音を聴きながら
- 何度も同じところを間違えている
- もう少しこうした方が良いと感じた場合
教室に入り、ワンポイントレッスンをしていくという流れ。
ただ、自分がすぐに改善できるアドバイスができると判断したときのみです。
いわゆる一つのアドバイスで改善できると感じたときだけですね。
余計な口出しはしないで見守るが基本で、滞在時間は5分程度。
できたら「OK!じゃあまた合奏で!」といなくなります。
基本的に、聴こえてくる音は全部聴いているので、見回りのときは廊下で楽譜に付箋を貼ったりしながら「この部分は後で合奏で取り上げるか」とか「ここはあとでレッスンしに行くか」など考え事をしています。
見回り中、生徒が練習せずに喋ってたら?
見回り中に生徒たちが喋ってたら、たまに僕もどさくさに紛れて雑談に参加します。
で、ある程度喋ったら聴きたい箇所を吹いてもらったり、「じゃあまた合奏で!」といなくなります。基本的に「練習しなさい!」といった注意はしません。
見回りで一番大切なこと
個人練習をしている教室を見回ることは、生徒たちの安全の確保や事故防止にも繋がります。
部活動指導員は技術的な指導だけでなく安全の確保、事故防止に務めるのも仕事の一つなので練習している様子を見守るのはとても大切なこと。
過去に一度だけ教室で具合が悪そうにしている生徒を見かけ、顧問の先生にすぐ連絡をしたことあったのですが、そうした経験も踏まえ練習している様子は一度見回るようにしています。
予定表に合奏計画を書く
毎月配布する予定表に合奏の計画を書いておきます。
部活動指導員を務めている学校の予定表には◯◯期間として吹奏楽コンクールの自由曲を4つの期間に分けて取り組み
- 譜読み期間
- 音程・音形・音色の調整期間
- 表現・音楽作りの期間
- 仕上げ期間
と分け、予定表の譜読み期間の終了日には目標;譜読み終了と書いています。
また自由曲は本番一週間前に仕上げ、録音の日を作りこの日が本番ということに設定します。
まず長期的なプランとして最終的なゴールを伝え、そこから中期的に4つの期間に区切った練習をし、さらにその中で活動日を個人練習と合奏の日に分け、合奏の日はリハーサルマークごとに進めていきます。
各期間にやること
本番までの時間を4つの期間に分けて合奏をする中で各期間にやるのは以下のようなこと
譜読み期間
まず楽譜を配布して曲が全て通るまでを譜読み期間としています。
この中でやるのは音程やリズムは曖昧で良いからまずは音楽的な方向性の統一です。
いわゆる表現の部分で、これらは音程や縦が合ってから取り組むことが多いですが、まずは最終的なゴールを共有するために音楽的な合奏指導から入ります。
その中で、合わせておきたい和音、難しいリズムの練習方法、拍子の感じ方をレクチャーしていきますが、まずは音楽作りをするところからスタート。
そして、最後は合奏指導する際に指揮を振る回数を減らし、生徒主体で音を合わせていく状態にしていきます。
少人数であれば円になって合奏をして、今は誰が合図を出すのか、誰と一緒に音を出しているのかをレクチャーする側に周り、視覚的に理解をしてもらったりして自分がいない日でも生徒たちで自主的に合わせをしていくために知っておきたい知識や、どんな練習をすれば良いのかを解説します。
いわゆる、練習の要点を伝えておくということ。
ここで譜読み期間は終了。
音程・音形・音色の調整期間
次に、音程・音形・音色の調整期間に入り、ハーモニディレクターやピアノ、チューナやメトロノームを使って音程・音形・音色を揃えていく練習をしていきます。
これまであまり使わなかった機械を活用して、縦の線を揃えたりリズムの精度を上げていきます。
まず縦の線や音程、リズムを合わせてから表現ではなく、この時点で音楽的な方向性がある程度まとまっているとこの期間がとても楽になります。
表現・音楽作りの期間
音程・音形・音色の調整を徹底したら、再び音楽的なレクチャーが中心となる合奏に移行していきます。よりクリアな響きの中で音楽的な練習をすることで、より表情豊かな演奏につながるのではと思います。
勤務校ではまだこの期間ではありませんが、これまで自分が指導してきた吹奏楽団やオーケストラも同じようなプランで練習を進めています。
最終的には指揮台に立ったまま何もせず、欲しいところだけ合図をしその意図を共有できると理想かなと感じています。
仕上げの期間
いよいよ本番が近づき仕上げの期間に入ります。
僕は本番前最後の練習日の一つ前の練習を演奏会当日と仮定していることが多く、コンクールの場合は当日の前の週を仕上げの期間としています。
今年はコロナの状況で先が見えないので、収録または撮影をしてみようかと考えています。
合奏は録音し共有する
今、学校では一人一台タブレットが配られてるようなので、合奏はどんどん録音するように伝えています。
そして、僕も合奏は録音し顧問の先生を通して生徒たちと共有するようにしています。
合奏の録音を共有することでその日の復習にもなるし、合奏の時間に全てを理解するのは難しいと思うので、少しずつ一人一人の中に「なるほど!」が増えていくきっかけになればと共有をしています。
合奏の録音を共有するときの自分ルール
合奏の録音を生徒たちと共有する上で、自分が設けているルールがあります。
それは
- 録音を聴くことを強制しない
- 録音を聴いたかどうかを問わない
ということ。
まして「録音聴いてないの?」はNGです。
録音は聴きたいと思ったら聴くでOK。
とある学校では、顧問の先生や指導員を含めた指導チームのライングループを作り、録音や合奏内容の共有をしています。
自分本来の力を発揮できる場所を作る
僕が一番大切にしているのがこれです。
合奏の時間が自分本来の力を発揮できる場所になれば、生徒たちはどんどん上手くなる。
これが僕の考えです。
- 音を間違えないようにしようと遠慮する
- 吹けないところを小さく吹いてしまう
- 誰かの影に隠れてコソコソ吹く
- 怒られたらどうしようと守りの姿勢に入る
- 先輩や先生など誰かの顔色を伺ってしまう
こうしたことをしなくて良い環境であれば、生徒たち一人一人がのびのびと演奏できる場所であれば、きっと生徒主体で自分の能力をどんどん伸ばしていくと考えています。
周りを気にせず思いっきり行こうぜ!
せっかく好きで楽器演奏してるんだから、最終的な舵取りはこっちがするからまずは自分らしさ全開でGO!音楽をやる上で大切なのは勇気、まずは一歩踏み出すところから。
これは実社会でも同じだと思うんですね。
楽しいと上を目指すは両立できる
吹奏楽コンクールの時期なのでもう一つだけ書いておしまいにしようと思います。
この時期によく聞く
- 楽しくやるか
- 上を目指すか
これは両立できると思ってます。
厳しい練習や長時間の練習を否定するつもりは一切ないけれど、何より大切なのは部活に来るのが楽しみって気持ちや顔色を伺わずにのびのび吹ける環境。
そしてあとは熱狂。
耳障りの良い言葉に聞こえるけど、好きと楽しいから生まれた熱狂こそ最強だと思っています。
おわりに
毎年たくさんの学校の指導に関わる吹奏楽コンクールの時期。
今年は部活動指導員として学校に勤務したり例年とは違った形との活動スタイルになっていますが、限られた時間で効率的な合奏をするためには何をすればよいか、日々実践していることや考えていることを書いてきました。
部活動指導員としては5月の下旬に学校に着任したばかりなのでまだ1ヶ月半くらいしか経っていない新米ですが、これまで吹奏楽団やオーケストラを指揮・指導してきた経験を生かし部活動の発展に努めていきたいと思っています。
こうやって、いろいろ書いていますが僕もまだまだ勉強中。
教えるってことはたくさんのことを教わるんだなと感じています。
いよいよはじまる吹奏楽コンクール2022、今年も熱い夏を過ごしていきましょう!