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音楽で描く超豪華列車の旅。F.スパーク/オリエント急行 Orient Express

こんにちは。コントラバス奏者、吹奏楽指導者、指揮者の井口信之輔です。

クラシック音楽を中心にコントラバス奏者として活動するほか、中学高校の吹奏楽部やオーケストラ部、大学サークルでコントラバスの講師を務めたり、アマチュア楽団の指揮・指導にあたったり、茨城県にある取手聖徳女子高校の音楽科でコントラバスの講師を務めています。

また、SNSでは日々の活動や音楽家のキャリア展開の仕方などを発信しています。

久しぶりの更新となりました自分の好きな曲を好きなように解説する勝手にプログラムノート

今回は、音楽で描く超豪華列車の旅、イギリスの作曲家フィリップ・スパークが生んだ名曲『オリエント急行』を紹介します。

F.スパーク/オリエント急行 Orient Express

フィリップ・スパークは、1951年にロンドンで生まれ、少年時代よりピアノやヴァイオリンのレッスンを受け、のちに英国王立音楽大学ではトランペットやピアノ、そして作曲を学びました。

現在では、ブラスバンドならびに吹奏楽のための作品を多く手がける作曲家として知られており、国内で開催されたコンサートでも客演指揮を務めるなど、日本とも深い親交のある作曲家です。

ブラスバンドと吹奏楽の違い

ちなみに、ブラスバンドと吹奏楽の違いは何か?というと構成される楽器の違いです。

ブラスバンドは金管楽器、打楽器と2種類の楽器で構成されることに対し、吹奏楽では金管楽器、木管楽器、打楽器と3つの種類の楽器によって構成されています。

また、演奏する楽曲のジャンルによってコントラバス、ピアノ、ハープなどが加わりますが、ブラスバンドも吹奏楽もあくまで標準的な楽器編成の一例であり、絶対的なものではありません。

F.スパークの作品の特徴

ここで、F.スパークの作品が持つ特徴について書いていきたいと思います。

F.スパークの作品が持つ特徴というのは、同じタイトルの楽曲にブラスバンドのために書かれた楽譜、吹奏楽のために書かれた楽譜が存在することです。

身近なもので例えると、ポケットモンスター「赤」と「緑」のような感じでしょうか。

ブラスバンドと吹奏楽とでは同じメロディが持つ表情や音色が違います。

ブラスバンドと吹奏楽の違いをより深く紐解くと違いは楽器の構成だけではないのですが、まずは楽器の構成が違うんだというところを知っておくと、聴き比べに楽しみが生まれるかもしれません。

また、これらの作品は作曲者自身がブラスバンド編成から吹奏楽編成へ編曲をしています。

音楽で描く、超豪華列車の旅

そんな、F.スパークの代表作の一つとして知られているのがオリエント急行という作品です。

1986年にBBC放送(英国国営放送)の委嘱によりブラスバンド作品として誕生し、1992年に吹奏楽編成に編曲された吹奏楽版が出版されると大きな話題となり、多くの演奏会で取り上げられました。

かつて、フランスはパリからイスタンブールを結んだ豪華列車『オリエント急行』

誰もが憧れる豪華な空間に最高級のディナー、車窓には欧州から中近東へと続くさまざまな景色が広がり、列車そのものがアートといわれた『オリエント急行』はまさに夢の空間だったようです。

1883年の開通記念列車にはじまり、時代の変化とともにヨーロッパ各地を結び、音楽作品としての『オリエント急行』が旅のはじまりを告げるのは、スコアの解説によるとロンドンにあるヴィクトリア・ステーション(ヴィクトリア駅)。

華やかなファンファーレが音楽の幕開け飾り、汽笛が聴こえたら出発の合図。

スネアドラムを中心とした打楽器セクションと、中音域、そして低音域の楽器の音が徐々に距離を詰めながら出発のシーンを描きます。

ゆっくりと動き出した列車は徐々に速度を上げ、スネアドラムとホルンが奏る心地よいリズムに乗せて、世界中の人々が憧れた超豪華列車の旅のはじまりです。

『オリエント急行』の旅は、さまざまな音楽的表情を併せ持ち、ときに力強く山間部を走り抜け、中間部では美しく哀愁に満ちたメロディが故郷に想いを馳せる感情を描きます。

流れ行く車窓の景色こそ、鉄道の旅の魅力の一つ。

トンネルを抜けるような転調を経て、旅のはじまりに耳にしたメロディが聴こえてきたら終着駅まであと少し。

音楽は徐々に盛り上がりをみせ、超豪華列車を歓迎するような華やかなファンファーレを経て速度を落とし、ホイッスルがホームに鳴り響けば目的地であるヴェニスへと到着です。

小さい頃、乗り物図鑑で見た新幹線にはじめて乗ったときの感動、ある人は昔々の上野駅13番ホームから北へと走る特急列車たちとの出会いや旅の思い出が演奏に結びつくかもしれません、

ホームに漂う立ち食いのそばの香りにチキン弁当の懐かしい味、冷凍みかんなんかもありました。

独特の匂いがする車内に進行方向に並んだ座席、いつも乗ってる電車よりもゆっくりと動き出す鉄道の旅はいつだってドキドキとワクワクの中からはじまります。

オルゴールの鉄道唱歌が楽しかった上野からの旅を思い出させてくれるように、『オリエント急行』を聴きながら、どこかに出かけた旅の思い出が蘇ったら素敵ですよね。

それでは、ブラスバンドそして吹奏楽で描く超豪華列車の旅をお楽しみに。

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イグチシンノスケ

千葉県出身。 船橋市立葛飾中学校管弦楽部にてコントラバスと出会う。 千葉県立市川西高等学校吹奏楽部を経て洗足学園音楽大学へ入学。 2022年春学期東京音楽大学指揮研修講座修了。 在学中より「吹奏楽部におけるコントラバスの現状」に着目し、多くの講習会に講師として参加。大学卒業後はフリーランスのコントラバス奏者としてオーケストラ、吹奏楽、室内楽をはじめ楽器製作ワークショップやレコーディングなど多方面での演奏活動をする傍ら、吹奏楽指導者・アマチュアオーケストラのトレーナーとしても活動しており、中でも吹奏楽におけるコントラバスの指導に力を入れている。 これまでにコントラバスを寺田和正、菅野明彦、黒木岩寿各氏に師事。指揮法を川本統脩、三河正典各氏に師事。よこはま月曜吹奏楽団指揮者。初心者と子どものためのオーケストラpìccolo音楽監督。板橋区演奏家協会理事。取手聖徳女子高等学校音楽科非常勤講師。

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